吃音者の聴覚機能の不全(欠陥)

"Functional organization of the auditory cortex is different in Stutterers and fluent speakers "

R. Salmelin, A. Sschnitzler et al
Brain Research Unit, Low Temperature Laboratory, Helsinki University of Thechnology, Finland
Neuroreport Vol.9 No 10 13 July ,1998, P.2225-2229


はじめに
 以前から機能に欠陥のある聴覚フィードバックが吃音の原因であることが提案されている。また、吃音者の聴覚が正常と微妙に異なっていることに関する報告や、近年のPETの研究から流暢に読んでいるときと吃症状を示しているときの聴覚皮質の活動に違いのあることが提案されている。
さらに、脳の他の領域に正常とは異なる際立った栄養の消費(酸素消費量)に違いが見られるなどの報告がある。
吃音は本質的に、ノイズで自分の声を聞こえないように隠蔽したとき、他の人と声を合わせて唱和(chorus reading)したとき、メトロノームで拍子をとったときなどは吃音が現れない。
 遅延聴覚フィードバック(DAF: Delayed Auditory Feedback)を使うと流暢な話声になるが、正常な流暢な話し方に比べて、話声生成の機能は乱される。(注:抑揚の無い話声になる。)
 吃音者の聴覚は音像定位が困難であるなどの基本的な欠陥が考えられる。また、種々の言語検査から、吃音者の聴覚機能に微妙な欠陥が感じ取れる。
 例えば、同時に両方の耳に意味のある違ったことばを聞かせると、通常観察される右耳の優れた機能が見られない。これは明らかに言語に関する高次の機能の欠陥を反映していると考えることが出来るだろう。
 この報告では、被験者は9人の吃音者(内男性7人)と非吃音者10人(内男性8人)について調べている。
 検査法は、確実に観察できる刺激開始後の潜時100ms(N100m)の脳電磁(活動電流の方向示す電流双極子)を調べるために、神経磁気測定器(Neuromag-122)の応答を調べた。
 聴覚皮質の応答部位を厳密に調べるために、安静時と声を出して読む課題を実行している間に、片方ずつ交互に短音(40msの4kHz音)を0.8から1秒間隔で聞かせた。
 刺激に対する反応の部位や時間の経緯はMEG(Magnetoelectrogram:脳磁図)で特定した。
 (注:Neuromag-122は脳磁図(magnetoencephlography:MEG)測定器の一種)

結 論

1 他の感覚と違って聴覚は、非吃音者と吃音者ともに、刺激音は刺激を与えた側と反対側の両方の一次聴覚野に投射されている。非吃音者では左半球の活動が右半球の活動より優位(左脳優位)であったが、吃音者は左半球の活動より右半球の活動が大きいこと(右脳優位)が分かった。(図1参照)
非吃音者の電流双極子 2 N100m応答の様子
(1) 声を出さないで読む(黙読、口を動かす)ときは、本質的に潜時と振幅は同じである。
(2) 声を出して読む(大声で読む、唱和する)ときは、声を出さないときに比べて、N100mの潜時は遅れ、振幅は減少する。(図2参照)
  音刺激開始後20-30msでシルビウス溝周辺(下前頭回弁蓋部)に応答が始まり、100msで最大になる。この応答の厳密な心理学的な機能はわからないが、聴覚皮質(または皮質下)への入力信号の処理に関わっているニューロンの数又は同期の減少を反映しており、評価処理をしなければならない内容が増えた結果であると推定できる。

3 吃音者と非吃音者の違い
  発達性吃音は、言語生成に必要な部分機能(聴覚、運動、言語システム)のどれか一つ又はいくつかが右脳と左脳で対称的な混乱(mirror diturbance)を起している結果であろう。
  少なくとも、この研究から得たデータでは、なん人かの吃音者は聴覚皮質の機能的な仕組みが非吃音者と基本的に違っていた。左右半球の機能のバランスが吃音者では安定し難く、処理の負担が大きくなって混乱を起していた。
 この混乱は一次的で説明できない聴覚の知覚異常によって起こるのかもしれない。この異常は吃音の始まるきっかけであり、他の機能の乱れを引き起こし、これが話声のコントロールの混乱に関係するのだろう。