【報告】
デジタル逆さめがねを作ってみた。

デジタル逆さめがねを作ってみた。

逆さめがねというのはガラスやアクリルのピースを組み合わせて、世界が逆転して見えるようにする眼鏡である。
上が下、下が上に見えるようにしたり、左右を逆転させたりする。
一週間も掛け続けていると、逆さの状態が正常に感じられるようになり、眼鏡を外した時に世界が反転しているように感じられるらしい。

今回作ろうとしたのは、これのデジタル版である。
光学的な逆さめがねは軽く作るのが大変なのだが、デジタル版であれば頭に付ける部分を軽くできるのではないかと考えた。

現時点で最小クラスのノートPCである Sony Vaio type U。ポケットPC並みのサイズでありながら、Windows XPがそのまま入っている。

Logicool のウェブカメラ。解像度は130万画素。とても軽い。

さらに、Daeyang の i-Visor FX601というヘッドマウントディスプレイ。

とりあえず部品類はこれだけ。

研究室にいたsloth氏、N岡さんに手伝ってもらい、組み立てを行う。
ヘッドマウントディスプレイの前面にセロテープで厚紙を貼り付け、ウェブカメラのクリップで挟む。軽いのでこれで十分支えられる。
さらに、ヘッドマウントディスプレイの後ろに輪ゴムを付けて、頭に固定する。
type U の本体やケーブル類は首からかけるポーチに入れる。

ビューアはとりあえず NetMeeting を使うことにした。
左右反転や上下反転はウェブカメラの設定で簡単にできる。

かくしてデジタル逆さめがねの完成である。

研究室の中をうろうろしはじめるsloth。

「よく歩けるなぁ」
「この場所を知っているからというのもある。問題はね、ちょっと外が見えちゃうんですよ」

顔とヘッドマウントディスプレイの隙間から正常な世界が見えてしまうという問題。

「そしたら、ブルカだ」
「何かかぶればいいんだね」

紙袋で頭を隠すようにした。

小さな穴を開けて、ウェブカメラだけ外に突き出すようにする。

最初、眼鏡全体が出るくらいの穴を開けてしまったが、実はその必要はまったくなくて、ウェブカメラのレンズだけ突き出せば良いということに気がついた。大きな穴は後ろに回すようにした。

「これでどう?」

机にごつんごつんとぶつかり始めるsloth。うまく行っているようである。

「電話、取れる?」

反対方向に手を伸ばす。

ホワイトボードに字を書いてみる。
頭で憶えているので、短いフレーズは簡単に書けるようであるが、図を描くのが難しい。
日本地図はぐじゃぐじゃ。

ここで面白い発見。
小さい頃に左利きを右利きに矯正したというN岡さんは、逆さ文字を猛烈な速度で書ける。すごい特技だ。左利きから矯正した人はみんなできるのだろうか。

三人で夕刻の街に繰り出す。

バス停の前の人々が怪訝な顔をして我々を見ている。

逆さめがねの実験をしているようには見えないだろう。単に、紙袋をかぶった変な男である。

ウェブカメラの小さなレンズをふさぐと見えなくなってしまうというのが面白い。

柵などにごつごつぶつかりながら、歩道を歩く。

次第に暗くなってくる街並み。

「白黒だよ」

暗すぎて風景がほとんど見えないらしい。

「赤外線カメラにしたい」

たしかに。

「今、サイボーグみたいな感じ?」
「3Dのゲームを始めたばかりで、足取りおぼつかなく歩いているという感じ」

オフィスは河原町二条にあるため、そこから河原町通りを南に向かって歩く。

「ノイズがすごい」

暗いためカメラ映像にノイズが入ってしまうのだと思う。

「月は見える?」
「見える」
「欠け方は?」
「そこまでは分からん」
「半月なんだけど」

明るすぎる光源は円形になってしまい、形がよく分からないのだと思う。

最初は左右反転にしていたのだが、途中で上下反転に切り替える。

「左右反転の方が難しい」

これは僕も以前、同じ感想を抱いた。上下は頭の中で変換しやすいが、左右は難しい。

京都市役所の前の広場に出た。

ここで僕に交代。

たしかに暗い。ウェブカメラには集光力に限界がある。
細かい光の線のノイズが入り、ホラー映画の呪いのビデオみたいである。

さらに、ビューアが全画面表示になっていないため、カメラ映像の周囲はWindows。
呪いのビデオ的な世界と、その周囲のデスクトップのギャップが著しい。

サイボーグの出てくる映画で時折、視野の周辺にそれらしき計測メーターなどが出ていたりするが、今後現実にサイボーグが作られるとしたら、視野の周辺はWindowsになるのではないか。

御池通の向こう側、寺町のアーケード入り口がまるでルミナリエのように光り輝いて見える。
輝度の調整がうまくできていないため、明るい所は強調され、他の部分は暗い。

しかし、黄昏時の青い光が全体を満たしていて、白黒というより、記憶の中のディズニーランドという感じ。
安っぽいドラマの回想シーンとか。

夕焼け空はしっかり見える。足下は暗い。

「バッテリが切れかけています」という表示が出る中、まだまだ歩く。

ごつんとぶつかる。
歩道と車道の仕切り用のポールだった。
危ない高さだ。

カメラのレンズの関係で、離れているものがかなり近く見える。
たとえば車がものすごく近くを走り抜けていくように感じられる。ちょっとスリルがある。

「寺町に行こう」

アーケードなので、明るいはずである。

寺町御池の交差点に差し掛かった時、slothとN岡さんが誰かと話し始めた。

「何してるんですか?」
「ちょっと実験を……」

ウェブカメラ越しには誰だか分からない。ただ人影が立っているだけである。

「無視して通り過ぎようかと思ったのですが……」

秘書のIベさんであった。自転車で通りがかった所らしい。

「これはデジタル逆さめがねといって、世界が反転して見えるんです」

かぶってもらった。
ノリが良くて素晴らしい。

「アーケード綺麗でしょ?」
「綺麗ですね」

よろよろと歩くIべさん。

「あ。真っ黒に……」

バッテリ切れで終了。

なかなか興味深い実験であった。

次回はもっと明るい時間帯に行うことにした。

色の反転や視野の拡大など、通常の逆さめがねで行えないこともいろいろ試してみたい。

このデジタル逆さめがねの泣き所は、ウェブカメラの解像度が十分高くないため、小さな字を読めないことである。
そんな状態で一週間生活することなど、不可能である。
通常のDVカメラをくっつけるという方法もあるが、重くなってしまうだろう。
あるいはもう少し待てばウェブカメラの解像度も向上し、もっと良いものが作れるかも知れない。

 

℃ Taro Tezuka (2006.9.3)
その他の体験一覧 トップページに戻る

トップページに戻る